俺の日本舞踊

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長唄「賤の苧環(しずのおだまき)」歌詞と解説

日本舞踊で人気の長唄「賤の苧環(しずのおだまき)」の歌詞と解説です。

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静御前葛飾北斎

「賤の苧環(しずのおだまき)」の解説

義経静御前といえば、日本人なら誰しもが知っている、悲恋の物語を思い浮かべるでしょう。長唄「賤の苧環(しずのおだまき)」は、その静御前の伝説を元に、明治期の名人、五代目杵屋勘五郎が作曲、舞踊化したものです。「静の小田巻」と書かれる場合もあります。

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静の舞(鶴岡八幡宮)公式HPより

義経の実兄であり政敵でもある源頼朝の前で、鎌倉幕府を讃える舞を所望された静御前は、頼朝の意に反し、義経を懐かしみ、別れを悼む舞を舞います。頼朝の逆鱗に触れますが、頼朝の妻・北条政子が「義経を慕う心を忘れない静御前こそ貞女と言うべきで、それを舞によって表現されたことはまさに幽玄である。お怒りもごもっともですが、そこを曲げてお褒めください」と言ってとりなした、という伝説が元になっています(鎌倉時代の歴史書『吾妻鑑』)。

「賤の苧環(しずのおだまき)の背景

鎌倉時代、京都の白拍子(男装して舞を披露する芸人)だった静御前は、源義経と恋仲になります。しかし、実兄・頼朝と不仲になった義経はやがて頼朝から追われる身となり、連れ立って逃れる途中、吉野(奈良県)で別れ別れになってしまいます。

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吉野山別離の図

やがて囚われてしまった静は、頼朝(歌詞の『鎌倉殿』は頼朝のことです)の前に引き出され、舞を舞うように命じられます。はじめは拒んでいた静もとうとう拒みきれなくなり、鎌倉・鶴岡八幡宮にて、鎌倉幕府を讃える奉納舞を舞うことになります。その舞の様子を描いたのが、長唄「賤の苧環(しずのおだまき)」になります。

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鶴岡八幡宮(鎌倉)公式HPより

「賤の苧環(しずのおだまき)」内容の解説

明治期の作品ということもあって比較的理解しやすいテキストとなっています。中でも特に目を引くのが「吾妻鑑」から引用されている、次の二首の和歌です。

 

吉野山

峰の白雪ふみわけて

入りにし人(の跡)ぞ恋しき

 

賤やしづ

賎のおだまき繰り返し

昔を今になすよしもがな

 

吉野山〜」の句の意味

吉野山は、九州へ逃れる途中、義経静御前が別れた場所。寒さ厳しい冬の山道で別れ、離れ離れになってしまった義経が恋しい静御前のまっすぐな感情表現が、心に響きます。

 

「賤やしづ〜」の句の意味

「賤の苧環(しずのおだまき)」とはなんでしょうか。

「賤(倭文とも表記)」は、麻などで作られた糸。織られた布は賤機織(しずはたおり)とも。苧環(おだまき)は糸を巻いたもの。いわば「糸巻き」です。ここでは糸巻きがくるくる回るイメージから「繰り返すこと」の比喩で用いられています。

また、「賤」には、卑しいとか、身分が低いという意味があります。これは静御前が自分自身の白拍子という身分を表したもの

そして、静御前」の名前「静(しず)」そのものも意味しています。

「静や、静」と繰り返し呼んでくれた義経との日々も今は過去の思い出。ああ、あの昔が、また今になればいいのに。くるくる回る苧環(おだまき)は、運命に翻弄された二人の暗喩なのかもしれません。

頼朝の意に背いた静御前はどうなった?

頼朝から、舞によって鎌倉幕府を讃えることを命じられていた静御前。しかし静御前が実際に舞ったのは義経への強い想いでした。居並ぶ人々が感動する中、頼朝は怒りますが、妻・政子のとりなしによって静御前は許され、卯の花襲の衣を褒美として賜ったと言われております。

この作品は明治四十一年(1908)菊地武徳作詞、五代目杵屋勘五郎によって作曲されました。

「賤の苧環(しずのおだまき)」の歌詞

吉野山

峰の白雪ふみわけて

峰の白雪ふみわけて

入りにし人ぞ恋しき


恋衣いとど露けき旅の空

身の終りさへ定めなく

東路さして行く雲の

箱根を後にこゆるぎや

はや鎌倉に着きにけり


これは静と申す白拍子にて候

さてもこの度

鎌倉殿御所望にて

妾にひとさし舞ひ候へとの御事にて候

思い出づれば在りし世の

栄華の夢や一ト時の花に戯れ月に舞ふ

さす手引く手はかはらねど

かはる浮世のうきふしを

忍び兼ねたる時の和歌


賤やしづ

賎のおだまき繰り返し

昔を今になすよしもがな

知勇すぐれし我が君の

そのいさほしの


かひまさで

鎌倉山の星月夜

いつしか曇り思はずも

千代を契りし仲つひに

遠く隔つる雲霞

かかる浮き身ぞただ頼め

しめじが原のさしも草

われ世の中にあらん限りは

守らせ給へ君の行く末

昔を今にかへす袖

おだまきならで玉の緒の

絶えなばたえよ誓いてし

清き心を白拍子とは誰がなづけけん語り草

大和撫子敷島の

すぐなる道に逢竹の

節面白き今様を

またくり返し謡ふ世の

深きめぐみぞありがたき

深きめぐみぞありがたき